まちのおどりば
町の踊り場

冒頭文

夏のことなので、何か涼しい着物を用意すればよかつたのだが、私は紋附が嫌ひなので、葬礼などには大抵洋服で出かけることにしてゐた。紋附は何か槍だの弓だの、それから封建時代の祖先を思はせる。それに、和服は何かべらべらしてゐて、体(からだ)にしつくり来ないし、気持までがルウズになるうへに、ひどく手数のかゝる服装でもある。 それなら洋服が整つてゐるかといふと、さうも行かなかつた。古い型のモオニング

文字遣い

新字旧仮名

初出

「経済往来」1933(昭和8)年3月

底本

  • 現代文学大系 11 徳田秋声集
  • 筑摩書房
  • 1965(昭和40)年5月10日