なのはな ――はるのしんななくさのふのそのひとつ――
菜の花 ――春の新七草の賦のその一ツ――

冒頭文

水油なくて寢る夜や窓の月(芭蕉) の句は、現代のものには、ちよつとわかりにくいほど、その時代、またその前々代の、古い人間生活と、菜の花との緊密なつながりを語つてゐる。いま、わたしたちが菜の花を愛するのもさうした祖先の感謝をもつて、心の底に暖かみを感じてゐるのかも知れない。日の光りと、月光(げつくわう)と、薪(まき)の火と、魚油(ぎよゆ)しかなかつた暗いころの、燈(とも)し油(あぶら)にな

文字遣い

旧字旧仮名

初出

「東京日日新聞」1936(昭和11)年4月16日

底本

  • 中央公論社
  • 1939(昭和14)年2月10日