ふろおけ
風呂桶

冒頭文

津島はこの頃何を見ても、長くもない自分の生命を測る尺度のやうな気がしてならないのであつた。好きな草花を見ても、来年の今頃にならないと、同じやうな花が咲かないのだと思ふと、それを待つ心持が寂(さび)しかつた。一年に一度しかない、旬(しゆん)のきまつてゐる筍(たけのこ)だとか、松茸(まつたけ)だとか、さう云ふものを食べても、同じ意味で何となく心細く思ふのであつた。不断散歩しつけてゐる通りの路傍樹の幹の

文字遣い

新字旧仮名

初出

「改造」1924(大正13)年8月

底本

  • 現代文学大系 11 徳田秋声集
  • 筑摩書房
  • 1965(昭和40)年5月10日