はながさく
花が咲く

冒頭文

磯村は朝おきると、荒れた庭をぶら〳〵歩いて、すぐ机の前へ来て坐つた。 庭には白木蓮(しろもくれん)が一杯に咲いてゐた。空からの白さで明るく透(す)けてゐるやうに思へた。花の咲く時分になつてから、陽気が又後戻りして来て、咲きさうにしてゐた花を暫し躊躇(ちうちよ)させてゐたが、一両日の生温(なまぬる)い暖かさで、それが一時に咲きそろつた。そしてその下の方に茂つてゐる大株の山吹が、二分どほり透

文字遣い

新字旧仮名

初出

「改造」1924(大正13)年4月

底本

  • 現代文学大系 11 徳田秋声集
  • 筑摩書房
  • 1965(昭和40)年5月10日