あるばいしょうふのはなし |
或売笑婦の話 |
冒頭文
この話を残して行つた男は、今どこにゐるか行方(ゆくへ)もしれない。しる必要もない。彼は正直な職人であつたが、成績の好(よ)い上等兵として兵営生活から解放されて後、町の料理屋から、或は遊廓から時に附馬(つけうま)を引いて来たりした。これは早朝、そんな場合の金を少しばかり持つて行つた或日の晩、縁日の植木などをもつて来て、勝手の方で東京の職人らしい感傷的な気分で話した一売笑婦の身の上である。
文字遣い
新字旧仮名
初出
「中央公論」1920(大正9)年4月
底本
- 現代文学大系 11 徳田秋声集
- 筑摩書房
- 1965(昭和45)年5月10日