くわつみ
桑摘み

冒頭文

庭木(にはき)の植込みの間に、桑の細い枝が見える。桑畑に培(つちか)はれたものよりは、葉がずつと細かい。山桑(やまくは)とでもいふのかもしれぬ。 おお、さういへば、かつて、兵庫の和田の岬のほとりが、現今(いま)ほどすつかり工場町(こうぢやうまち)になつてしまはないで、松林に梅雨(つゆ)の雨が煙り、そのすぐ岸近くを行く汽船(ふね)の、汽笛の音が松の間をぬつて廣がりきこえるほど、まだ閑靜(し

文字遣い

旧字旧仮名

初出

「新裝」1935(昭和10)年7月1日

底本

  • 中央公論社
  • 1939(昭和14)年2月10日