庭木(にはき)の植込みの間に、桑の細い枝が見える。桑畑に培(つちか)はれたものよりは、葉がずつと細かい。山桑(やまくは)とでもいふのかもしれぬ。 おお、さういへば、かつて、兵庫の和田の岬のほとりが、現今(いま)ほどすつかり工場町(こうぢやうまち)になつてしまはないで、松林に梅雨(つゆ)の雨が煙り、そのすぐ岸近くを行く汽船(ふね)の、汽笛の音が松の間をぬつて廣がりきこえるほど、まだ閑靜(し