しょうきょく
小曲

冒頭文

ひどい暴風雨(あらし)だった。ゴーッと一風くると、まるで天井を吹き飛ばされそうな気持がする。束になった雨つぶが、窓硝子(ガラス)へ重い肉塊のように打(ぶ)つかって来て、打つかっては滝をなして流れるのである。そのひと揺れごとに電燈が消えた。時おり電車のひびきが聞えて来るが、それもその度に椿事(ちんじ)があっての非常警笛のように思いなされた。何かはためいて、窓の外は底も知れず暗い。 田中君は

文字遣い

新字新仮名

初出

「探偵クラブ」1932(昭和7)年12月号

底本

  • 「探偵クラブ」傑作選 幻の探偵雑誌8
  • 光文社文庫、光文社
  • 2001(平成13)年12月20日