ここでは夜明けが僕の瞼の上に直接落ちてくる。と、僕の咽喉のなかで睡つてゐる咳は、僕より早く目をさます。咳は、板敷の固い寝床にくつついてゐる僕の肩や胸を揉みくちやにする。どんなに制しようとしても、発作が終るまでは駄目なのだ。僕は噎びながら、涙は頬にあふれる。だらだらと涙を流しながら、隣家の庭に咲いてゐる紫陽花の花がぽつと朧に浮んでくる。僕は泣いてゐるのだらうか、薄暗い庭に咲き残つてゐる紫陽花は泣かな