かごつるべ
籠釣瓶

冒頭文

一 次郎左衛門(じろざえもん)が野州(やしゅう)佐野の宿(しゅく)を出る朝は一面に白い霜が降(お)りていた。彼に伴うものは彼自身のさびしい影と、忠実な下男(げなん)の治六(じろく)だけであった。彼はそのほかに千両の金と村正(むらまさ)の刀とを持っていた。享保(きょうほう)三年の冬は暖かい日が多かったので、不運な彼も江戸入りまでは都合のいい旅をつづけて来た。日本橋馬喰町(ばくろちょう)の佐野屋

文字遣い

新字新仮名

初出

底本

  • 江戸情話集
  • 光文社時代小説文庫、光文社
  • 1993(平成5)年12月20日