かがみにだい
鏡二題

冒頭文

暗い鏡 鏡といふものをちやんと見るやうになつたのは、十八——九の年頃だつたと思ひます。その前だとて見ましたが、鏡にうつる自分を——まだそのころだとて顏だけですが——見たといへませう。十七位の時分は寧ろ姿全體にうつるもの——姿見鏡(すがたみ)でなくつても、硝子戸なんぞでも氣まりが惡かつたので見ないふりをして、その癖誰も見るものがないとしげしげと見詰めたものです。どうも體のどこもが丸くなるのが—

文字遣い

旧字旧仮名

初出

暗い鏡「婦人公論」1929(昭和4)年、女と鏡「婦人公論」1936(昭和11)年4月号

底本

  • 中央公論社
  • 1939(昭和14)年2月10日