おとづれ
おとづれ

冒頭文

十五夜の宵だつた。新らしい借家に移つてから、ちよつと一度歸つて來て、そそくさと徹夜で書物をして出ていつたままのあるじから、幾日ぶりかで二度目の速達便が來た。丁度其日の新聞に連載ものが休みになつてゐたので、どこぞで病氣でもしてゐるのではないかと案じてゐたところなので、居所不明の手紙でもなんでも、無事だつたといふことが氣持ちを輕くさせてくれた。 例の通り、おわびやら、でたらめの改心やらを誓つ

文字遣い

旧字旧仮名

初出

「不同調」1926(昭和元)年

底本

  • 中央公論社
  • 1939(昭和14)年2月10日