ふたつのし
二つの死

冒頭文

一 その頃私はその朽ちて墜ちさうな二階の窓から、向側に見える窓を眺めることがあつた。檜葉垣を隔てて、向に見える二階建洋館のアパートでは、私が見おろす窓のところに、白い顔をした男が鏡にむかつてネクタイを結んでゐる。そのありふれた映画のなかの一情景か何かのやうな姿が、とにかく、あそこには、あのやうな生活があるのだなといふことが分るのだつた。ところが、私の立つてゐる側の六畳の部屋は、そこではボロボ

文字遣い

新字旧仮名

初出

底本

  • 日本の原爆文学1 原民喜
  • ほるぷ出版
  • 1983(昭和58)年8月1日