むさしのの草に生れし身なればや くさの花にぞこころひかるる と口(くち)ずさんだりしたが、 「わたしの前生(さきしやう)はルンペンだつたのかしらん。遠い昔、野の草を宿としてゐて、冷(ひえ)こんで死(し)んだのかもしれない。それでこんなに家(うち)のなかにばかりゐるのかしら?」 門(かど)を一足(ひとあし)出て、外の風にあたると、一町も千里もおんなじだと氣が輕くなつてしまふ