あるとき
あるとき

冒頭文

むさしのの草に生れし身なればや  くさの花にぞこころひかるる と口(くち)ずさんだりしたが、 「わたしの前生(さきしやう)はルンペンだつたのかしらん。遠い昔、野の草を宿としてゐて、冷(ひえ)こんで死(し)んだのかもしれない。それでこんなに家(うち)のなかにばかりゐるのかしら?」 門(かど)を一足(ひとあし)出て、外の風にあたると、一町も千里もおんなじだと氣が輕くなつてしまふ

文字遣い

旧字旧仮名

初出

「早稻田文學 昭和九年九月號」1934(昭和9)年9月

底本

  • 中央公論社
  • 1939(昭和14)年2月10日