ひのこども
火の子供

冒頭文

〈一九四九年 神田〉 僕は通りがかりに映画館の前の行列を眺めてゐた。水色の清楚なオーバーを着たお嬢さんの後姿が何気なく僕の眼にとまつた。時間を待つてゐる人間の姿といふものは、どうしても侘しいものが附纏ふやうだが、そのお嬢さんの肩のあたりにも何か孤独の光線がふるへてゐた。たつた一人で、これから始る映画を見たところで、どれだけ心があたたまるといふのだらう。幸福さうな、しかし気の毒げな、お嬢さんよ

文字遣い

新字旧仮名

初出

底本

  • 日本の原爆文学1 原民喜
  • ほるぷ出版
  • 1983(昭和58)年8月1日