さいやくのひ
災厄の日

冒頭文

自分の部屋でもないその部屋を自分の部屋のやうに、古びた襖や朽ちかかつた柱や雨漏のあとをとどめた壁を、自分の心の内部か何かのやうに安らかな気持で僕は眺めてゐる。湿気と樹木の多い日蔭の露路にこの下宿屋の玄関はあつて、暗い階段をのぼつた突当りの六畳が僕の部屋なのだが、焼け残つたこの一角だけは今、焼跡に発生してゐるギラギラの世界に対して、静かに身を躱してゐるやうだ。 窓の外の建物の向ふにギラギラ燃え

文字遣い

旧字旧仮名

初出

底本

  • 日本の原爆文学1 原民喜
  • ほるぷ出版
  • 1983(昭和58)年8月1日