きょくていばきん
曲亭馬琴

冒頭文

一 きのう一日、江戸中のあらゆる雑音を掻き消していた近年稀れな大雪が、東叡山の九つの鐘を別れに止んで行った、その明けの日の七草の朝は、風もなく、空はびいどろ鏡のように澄んで、正月とは思われない暖かさが、万年青(おもと)の鉢の土にまで吸い込まれていた。 戯作者(げさくしゃ)山東庵京伝(さんとうあんきょうでん)は、旧臘(くれ)の中(うち)から筆を染め始めた黄表紙「心学早染草」の草稿が、

文字遣い

新字新仮名

初出

底本

  • 昭和のエンタテインメント50篇(上)
  • 文春文庫、文芸春秋
  • 1989(平成元)年6月10日