あきふかき
秋深き

冒頭文

医者に診せると、やはり肺がわるいと言った。転地した方がよかろうということだった。温泉へ行くことにした。 汽車の時間を勘ちがいしたらしく、真夜なかに着いた。駅に降り立つと、くろぐろとした山の肌が突然眼の前に迫った。夜更けの音がそのあたりにうずくまっているようだった。妙な時刻に着いたものだと、しょんぼり佇んでいると、カンテラを振りまわしながら眠ったく駅の名をよんでいた駅員が、いきなり私の手か

文字遣い

新字新仮名

初出

「大阪文学」1942(昭和17)年1月号

底本

  • 定本織田作之助全集 第二巻
  • 文泉堂出版
  • 1976(昭和51)年4月25日