ノンシャランどうちゅうき 07 アルプスのせんすいふ ――モンブランとざんのまき
ノンシャラン道中記 07 アルプスの潜水夫 ――モンブラン登山の巻

冒頭文

一、鼻には鼻、耳には耳——現品取引。エークス鉱泉(レ・バン)駅に約十分滞留したのち、汽車はブウルジェの湖畔の、水陸間一髪という際(きわ)どいところを走っている。 車窓に蘆(あし)の葉がなびき、底石の青苔や、御遊泳中の魚族(うろくづ)の鱗(うろこ)のいろも手にとるように見える。対岸、オオト・コムブの鬱蒼(うっそう)たる樅(もみ)の林は、そのまま水に姿を映し、湖上の小舟(サコレーヴ)は、いま

文字遣い

新字新仮名

初出

「新青年」1934(昭和9)年7月号

底本

  • 久夫十蘭全集 Ⅵ
  • 三一書房
  • 1970(昭和45)年4月30日