キャラコさん 11 あたらしきしゅっぱつ
キャラコさん 11 新しき出発

冒頭文

一 麻布竜土町の沼間(ぬま)家の広い客間に、その夜、大勢のひとが集まっていた。温室の中のカトレヤの花のような、眼の覚めるような若いお嬢さんが六人ばかり、部屋の隅の天鵞絨(びろうど)の長椅子に目白押しになって、賑やかな笑い声をあげている。 そこへ、つい今しがた来たばかりの一人が無理に割り込もうとしたので、押しかえすやら、こねかえすやら、それこそ花園に嵐が吹き通ったような騒ぎになる。

文字遣い

新字新仮名

初出

「新青年」博文館、1939(昭和14)年12月号

底本

  • 久生十蘭全集 Ⅶ
  • 三一書房
  • 1970(昭和45)年5月31日