キャラコさん 10 うまとろうじん
キャラコさん 10 馬と老人

冒頭文

一 秋が深くなって、朝晩、公園に白い霧がおりるようになった。 低く垂れさがった灰色の空から、眼にみえないような小雨がおちてきて、いつの間にかしっとりと地面を濡らしている。樹々の幹も、灌木も、草も、みな、くすんだ煤黝(ビチューム)色になり、小径の奥の瓦斯灯が、霧のなかで蒼白い舌を吐いている。 風の吹いたあくるあさは、この小さな公園はすっかり落葉で埋まってしまう。桐や、アカシ

文字遣い

新字新仮名

初出

「新青年」博文館、1939(昭和14)年11月号

底本

  • 久生十蘭全集 Ⅶ
  • 三一書房
  • 1970(昭和45)年5月31日