キャラコさん 09 はげいとうのいえ
キャラコさん 09 雁来紅の家

冒頭文

一 市ヶ谷加賀町から砂土原町のほうへおりる左内坂の途中に、木造建ての小さな骨董店(こっとうてん)がある。 西洋美術骨董、と読ませるつもりなのだろう、はげちょろになった白ペンキ塗りの看板に、"FOREIGN ART OBJECTS" と書いてある。 一間(けん)ほどの飾窓(ショウ・ウインドウ)のついた、妙に閉(し)め込んだ構えの、苔の生えたような家だった。人が出入りするのを

文字遣い

新字新仮名

初出

「新青年」博文館、1939(昭和14)年10月号

底本

  • 久生十蘭全集 Ⅶ
  • 三一書房
  • 1970(昭和45)年5月31日