キャラコさん 08 ムウン・ライト・ソナタ
キャラコさん 08 月光曲

冒頭文

一 ……それは、三十四五の、たいへんおおまかな感じの夫人で、大きな蘭の花の模様のついたタフタを和服に仕立て、黄土色の無地(むじ)の帯を胸さがりにしめているといったふうなかたです。 勇夫(いさお)兄さまは、あれは、黄疸(おうだん)色というんだよ、と悪口をいいましたが、あたしは、賛成しませんでした。 眼も、鼻も、口も、りっぱで、大きくて、ゴヤの絵にある西班牙(スペイン)の踊り

文字遣い

新字新仮名

初出

「新青年」博文館、1939(昭和14)年7月号

底本

  • 久生十蘭全集 Ⅶ
  • 三一書房
  • 1970(昭和45)年5月31日