キャラコさん 06 ぬすびと
キャラコさん 06 ぬすびと

冒頭文

一 しばらくね、というかわりに、左手を気取ったようすで頬にあて、微笑しながら、黙って立っている。 玄関で緋娑子(ひさこ)さんを見たとき、キャラコさんは、思わず、 「おや!」 と、眼を見はった。 わずか一年ばかり逢わずにいるうちに、すっかり垢(あか)抜けがしてまるで別なひとのようだった。 がむしゃらで、野蛮で、喧嘩早くて、頬や襟あしに生毛(うぶげ)

文字遣い

新字新仮名

初出

「新青年」博文館、1939(昭和14)年8月号

底本

  • 久生十蘭全集 Ⅶ
  • 三一書房
  • 1970(昭和45)年5月31日