キャラコさん 05 かもめ
キャラコさん 05 鴎

冒頭文

一 「兄さん、あたしは、困ったことになりはしないかと思うんですがね。ピエールは、きのうも、あのお嬢さんと二人っきりで話していましたよ」 海風(うみかぜ)でしめった甲板の上を大股で歩きながら、エステル夫人が、男のようなしっかりした声で、こういう。薄い靄(もや)のなかで、朝日がのぼりかけようとしている。 「あたしも、あのお嬢さんのいいところは認めます。でも、あなたのこういうやり方には、あ

文字遣い

新字新仮名

初出

「新青年」博文館、1939(昭和14)年5月号

底本

  • 久生十蘭全集 Ⅶ
  • 三一書房
  • 1970(昭和45)年5月31日