にせけいじ
偽刑事

冒頭文

或(ある)停車場で電車を降りた。長雨の後冷かに秋が晴れ渡った日であった。人込みから出るとホームの空気が水晶の様に透明であった。 栗屋(くりや)君は人波に漂(ただよ)い乍(なが)ら左右前後に眼と注意とを振播(ふりま)き始めた。と、直(す)ぐ眼の前を歩いて居る一人の婦人に彼の心は惹付(ひきつけ)られた。形の好い丸髷(まるまげ)と桃色の手絡からなだらかな肩。日本婦人としては先(ま)ず大きい型で

文字遣い

新字新仮名

初出

「新青年」1926(大正15)年2月

底本

  • 「新青年」傑作選 幻の探偵雑誌10
  • 光文社文庫、光文社
  • 2002(平成14)年2月20日