えちごじし
越後獅子

冒頭文

(一) 春も三月と言えば、些(すこ)しは、ポカついて来ても好いのに、此二三日の寒気(さむさ)は如何だ。今日も、午後(ひるすぎ)の薄陽の射してる内から、西北の空ッ風が、砂ッ埃を捲いて来ては、人の袖口や襟首(えりくび)から、会釈(えしゃく)も無く潜り込む。夕方からは、一層冷えて来て、人通りも、恐しく少い。 三四日前の、桜花でも咲き出しそうな陽気が、嘘の様だ。 辰公(たつこう)

文字遣い

新字新仮名

初出

「新青年」博文館、1926(大正15)年12月

底本

  • 「新青年」傑作選 幻の探偵雑誌10
  • 光文社文庫、光文社
  • 2002(平成14)年 2月20日