かんごくそうわ めんかいにんひかえじょ
監獄挿話 面会人控所

冒頭文

一 静かな読書生活 受附の看守が指した直ぐ向側の『面会人控所』の扉は重く閉されてゐた。龍子は新しい足駄の歯がたゝきにきしむのを気にしながら静かに歩み寄つて其の扉に手をかけた。重い戸が半ば開くと、直ぐ正面に同志のMの蒼白い顔が見えた。 此の控所は、東京監獄の大玄関の取りつきの右側で、三間ばかりの奥行をもつたそのたゝきの土間にそふてゐる細長い室(へや)であつた。這入(はい)つて左へ

文字遣い

新字旧仮名

初出

「改造 第一巻第六号」1919(大正8)年9月1日

底本

  • 定本 伊藤野枝全集 第一巻 創作
  • 學藝書林
  • 2000(平成12)年3月15日