ひつけひこしち
火つけ彦七

冒頭文

一 今から廿年ばかり前に、北九州の或村はづれに一人の年老(としと)つた乞食が、行き倒れてゐました。風雨に曝され垢にまみれたその皮膚は無気味な、ひからびた色をして、肉が落ちてとがり切つた骨を覆ふてゐました。砂ぼこりにまみれたその白髪の蓬々としたひたいの下の奥の方に気味の悪い眼がギヨロリと光つてゐました。 行き倒れの傍を取り巻いた子供達はその気味の悪い眼光に出遭ふと皆んな散り〳〵に

文字遣い

新字旧仮名

初出

「改造 第三巻第八号」1921(大正10)年7月15日

底本

  • 定本 伊藤野枝全集 第一巻 創作
  • 學藝書林
  • 2000(平成12)年3月15日