ひがしのなぎさ |
| 東の渚 |
冒頭文
東の磯の離れ岩、その褐色の岩の背に、今日もとまつたケエツブロウよ、何故にお前はそのやうにかなしい声してお泣きやる。お前のつれは何処へ去たお前の寝床はどこにある——もう日が暮れるよ——御覧、あの——あの沖のうすもやを、何時までお前は其処にゐる。岩と岩との間の瀬戸の、あの渦をまく恐ろしい、その海の面をケエツブロウよ、いつまでお前はながめてるあれ——あのたよりなげな泣き声——海の声まであのやうにはやくか
文字遣い
新字旧仮名
初出
「青鞜 第二巻第一一号」1912(大正元)年11月1日
底本
- 定本 伊藤野枝全集 第一巻 創作
- 學藝書林
- 2000(平成12)年3月15日