にっきより
日記より

冒頭文

六日———— 雨だらうと思つたのに案外な上天気。和(やわ)らかな日影が椽側の障子一ぱいに射してゐる。 書椽の方の障子一枚開くと真青な松の梢と高い晴れた空が覗かれる。波の音も聞こえぬ。サフランの小さい花がたつた一つ咲いてゐる。 穏やかな、静かな朝だ。何となく起きて見たい。枕の上に手をついてそつと上半身を起して見る。少し頭が重いばかりだ。暫(しばら)く座つてた。朗らかな目

文字遣い

新字旧仮名

初出

「青鞜 第二巻第一二号」1912(大正元)年12月1日

底本

  • 定本 伊藤野枝全集 第一巻 創作
  • 學藝書林
  • 2000(平成12)年3月15日