だいいちぎのみち
第一義の道

冒頭文

「もう何時かしら」と眼ざめた瞬間におちかは思つた。思はずはつとした氣持で、頭を上げて雨戸の方を見た。戸の外はまだひつそりとして、隙間のどの一つからも白んだ向うはのぞかれはしない。安心して、寢返りを打つたが、まだどこか心の焦點のきまらぬ氣持で眼をしばたたいてゐると、闇のなかに浮動する樟腦の匂ひがかすかに動いた部屋の空氣につれてほのかに鼻さきににほうて來た。すると急にさめてきた心にどきんと胸をつく強さ

文字遣い

旧字旧仮名

初出

底本

  • 島木健作作品集 第四卷
  • 創元社
  • 1953(昭和28)年9月15日