ひとりたび
独り旅

冒頭文

汽車がA駅を通過する頃から曇って来て、霧で浅間の姿も何も見えなくなった。冷たい風と一緒に小雨が降り出して、山際の畔で、山羊が黙々と首を振っている。三つめの駅で汽車を降りた時には、もう日が昏(く)れかけていたし、自動車もあるにはあったが、目的地まで半里だというので、ナニ歩けないことはない——脚には少し自信があるので、私は日和下駄のまま歩き出した。 街はずれで、青い事務服をお揃いに被(き)た

文字遣い

新字新仮名

初出

「詩精神」1934(昭和9年)9月

底本

  • 空にむかひて 若杉鳥子随筆集
  • 武蔵野書房
  • 2001(平成13)年1月21日