はなぞののしそう
花園の思想

冒頭文

一 丘の先端の花の中で、透明な日光室が輝いていた。バルコオンの梯子(はしご)は白い脊骨のように突き出ていた。彼は海から登る坂道を肺療院の方へ帰って来た。彼はこうして時々妻の傍(そば)から離れると外を歩き、また、妻の顔を新しく見に帰った。見る度(たび)に妻の顔は、明確なテンポをとって段階を描きながら、克明に死線の方へ近寄っていた。——山上の煉瓦(れんが)の中から、不意に一群の看護婦たちが崩(く

文字遣い

新字新仮名

初出

「改造」1927(昭和2)年2月号

底本

  • 日輪・春は馬車に乗って 他八篇
  • 岩波文庫、岩波書店
  • 1981(昭和56)年8月17日