いぬのいげん
犬の威厳

冒頭文

『あなたは、あなたの旦那樣の御容子をすつかりお氣に召してゐらつしやる?』と、いきなりよしのさんの言葉が私に向いて來た。 『え?』 私はたいへんどぎまぎした。そんな質問が私の上にまで、利口な聽手になつて、默つてばかりゐた私にまで及んで來ようとは、ちつとも豫期しなかつたのである。 それは先刻から隨分いろんな話が出だ。さうして今度結婚することになつた君島さんの大切な人の話から、男の風采

文字遣い

旧字旧仮名

初出

「中央文學」1914(大正3)年2月

底本

  • 水野仙子集 叢書『青鞜の女たち』第10巻
  • 不二出版
  • 1986(昭和61)年4月25日復刻版