「その父賢にして、その子の愚なるものは稀(めずら)しからず。その母賢にして、その子の愚なる者にいたりては、けだし古来稀(まれ)なり」 わたくしは、かつてのわたくしの作「孟母断機」の図を憶い出すごとに、一代の儒者、安井息軒先生の、右のお言葉を連想するを常としている。 嘉永六年アメリカの黒船が日本に来て以来、息軒先生は「海防私議」一巻を著わされ、軍艦の製造、海辺の築堡、糧食の保蓄などについて大いに