よいたるしょうにん
酔ひたる商人

冒頭文

一 東北のある小さな一町民なる綿屋幸吉は、今朝起きぬけに例の郡男爵から迎への手紙を受け取つたのであつた。それはいつものやうに停車場近くの青巒亭といふ料理屋からの使であつた。幸吉はこの朝早々の招待を、迷惑に思はないでもなかつたけれど、酒の味も滿更厭ではなかつたし、それに男爵から迎へられるといふ事が内心ひどく得意でもあつた。それですぐに參上致しますと口上で使をかへしてから、小僧を督して暖簾を掛け

文字遣い

旧字旧仮名

初出

「文章世界」1919(大正8)年7月

底本

  • 水野仙子集 叢書『青鞜の女たち』第10巻
  • 不二出版
  • 1986(昭和61)年4月25日復刻版