しろいかべ
白い壁

冒頭文

一 とうとう癇癪(かんしゃく)をおこしてしまった母親は、削(けず)りかけのコルクをいきなり畳に投げつけて「野郎ぉ……」と喚(わめ)くのであった。 「いめいめしいこの餓鬼(がき)やあ、何たら学校学校だ。この雨が見えねえか! 今日は休め!」 「あたいは学校い行くんだ」 富次は狭い台所ににげこんでそう口答えをした。しばらく彼はそこでごとごといわせていたが、やがて破れ障子の間からするり

文字遣い

新字新仮名

初出

底本

  • 日本文学全集 88 名作集(三)
  • 集英社
  • 1970(昭和45)年1月25日