けいば
競馬

冒頭文

行って来るぜ……なんて大っぴらに出かけるには、彼はあまりに女房に気兼ねし過ぎていた。それでなくてさえ昨今とがり切っている彼女の神経は、競馬があると聞いただけでもう警戒の眼を光らしていたのである。 「今日は山だ!」 仙太は根株掘りの大きな唐鍬を肩にして逃げるように家を出た。台所で何かごとごとやっていた妻の眼がじろりと後方からそそがれたような気がして、彼は襟首のあたりがぞっとした。彼はそれ

文字遣い

新字新仮名

初出

底本

  • 犬田卯短編集二
  • 筑波書林
  • 1982(昭和57)年2月15日