やまのこえ
山の声

冒頭文

私が失明をするに至った遠因ともいうべきものは、私が生れて二百日程たってから、少し目が悪かったことである。しかし、それから一度よくなって、七歳の頃までは、まだ見えていたのであるが、それから段々わるくなって、九歳ぐらいには殆ど見えなくなってしまった。それで、私が、今でも作曲する時には、その頃に私が見ていた、山とか月とか花とか、また、海とか川とかいうものの姿が、浮かんで来る。 こういうわけで、

文字遣い

新字新仮名

初出

「水の変態」1956(昭和31)年8月1日

底本

  • 心の調べ
  • 河出書房新社
  • 2006(平成18)年8月30日