つきひめ
都喜姫

冒頭文

つき姫とは仮に用ひし名なり、もとの事蹟悽愴むしろきくに忍びず、口碑によれば「やよがき姫」なり、領主が寵をうけしものから、他の嫉みを招くにいたり、事を構へて讒する者あり、姦婬の罪に行はる。身には片布をだに着くるを允(ゆる)さず馬上にして城下に曝(さら)す、牽(ひ)きゆくこと数里、断崖の上より擲(なげう)ちて死にいたらしむ、臭骸腐爛するに及ぶも白骨を収むる人なかりきといふ。その処わが郷里にあり、「やよ

文字遣い

新字旧仮名

初出

「新小説 第四年第七巻」1899(明治32)年6月

底本

  • 蒲原有明論考
  • 明治書院
  • 1965(昭和40)年3月5日