あわしまかんげつのこと
淡島寒月のこと

冒頭文

吾が友といつては少し不遜に當るかも知れないが、先づ友達といふことにして、淡島寒月といふ人は實に稀有な人であつた。やゝもすれば畸人の稱を與へたがる者もあるが、畸人でも何でもない、むしろ常識の圓滿に驚くばかり發達した人で、そして徹底的に世俗の眞實が何樣なものであるかといふことを知盡した人であつた。しかも多くの人は苦勞をしたり困難に出會つたり、痛い思や辛い目を見たりしてから、はじめて浮世の鹽辛さを悟るの

文字遣い

旧字旧仮名

初出

「東京日日新聞」1938(昭和13)年6月4日号、5日号

底本

  • 露伴全集 第三十卷
  • 岩波書店
  • 1954(昭和29)年7月16日