すいしょうのせん
水晶の栓

冒頭文

⦅一⦆夜襲 名にし負うアンジアン湖畔の夜半。小さい桟橋に繋いだ二隻のボートが、静かな暗(やみ)にゆらりゆらりと揺れて、夕靄の立ち籠むる湖面の彼方、家々の窓にともる赤い灯影(ほかげ)、アンジアン娯楽場(カジノ)の不夜城はキラキラと美しく水(み)の面(も)に映っている。時はちょうど九月の末、雲間を洩るる星の瞬きが二ツ三ツ。肌寒い風は水面を静に渡ってゆく。 アルセーヌ・ルパンはとある

文字遣い

新字新仮名

初出

「新青年 (第二巻第九號)夏季増刊」1921(大正10)年8月

底本

  • 「新青年」復刻版 大正10年(第2巻) 合本5
  • 本の友社
  • 2001(平成13)年1月10日