こをつれて |
子をつれて |
冒頭文
一 掃除をしたり、お菜(さい)を煮たり、糠味噌を出したりして、子供等に晩飯を済まさせ、彼はようやく西日の引いた縁側近くへお膳を据えて、淋しい気持で晩酌の盃を嘗(な)めていた。すると御免とも云わずに表の格子戸をそうっと開けて、例の立退き請求の三百が、玄関の開いてた障子の間から、ぬうっと顔を突出した。 「まあお入りなさい」彼は少し酒の気の廻っていた処なので、坐ったなり元気好く声をかけた。
文字遣い
新字新仮名
初出
「早稲田文学」1918(大正7)年3月
底本
- 哀しき父・椎の若葉
- 講談社文芸文庫、講談社
- 1994(平成6)年12月10日