ゆきのよる
雪の夜

冒頭文

大晦日に雪が降った。朝から降り出して、大阪から船の著く頃にはしとしと牡丹雪だった。夜になってもやまなかった。 毎年多くて二度、それも寒にはいってから降るのが普通なのだ。いったいが温い土地である。こんなことは珍しいと、温泉宿の女中は客に語った。往来のはげしい流川通でさえ一寸も積りました。大晦日にこれでは露天の商人(あきんど)がかわいそうだと、女中は赤い手をこすった。入湯客はいずれも温泉場の

文字遣い

新字新仮名

初出

「文芸」1941(昭和16)年6月

底本

  • 定本織田作之助全集 第二巻
  • 文泉堂出版
  • 1976(昭和51)年4月25日