ゆんしゅじ
尹主事

冒頭文

町の北、丘を越えたところにじめじめした荒蕪地がある。その眞中に崩れかかった一坪小屋がしょんぼり坐っていた。潜戸の傍にかけた大きな板には墨字で尹主事と書かれている。 尹主事は朝起きると先ず自分の版圖を檢分した。彼はこの荒蕪地一帶を自分の所領と定めている。汗をはたはた流しながら棒切れで境線を引き廻る。 そこで一先ず小屋に歸り、地下足袋をはきよれよれのゲートルを卷き付ける。擔具(チゲ

文字遣い

旧字新仮名

初出

「故郷」甲鳥書林、1941(昭和16)年

底本

  • 金史良作品集
  • 理論社
  • 1954(昭和29)年6月20日