あしあと
足跡

冒頭文

冬の長い國のことで、物蔭にはまだ雪が殘つて居り、村端れの溝に芹の葉一片(ひとつ)青んでゐないが、晴れた空はそことなく霞んで、雪消(ゆきげ)の路の泥濘(ぬかるみ)の處々乾きかゝつた上を、春めいた風が薄ら温かく吹いてゐた。それは明治四十年四月一日のことであつた。 新學年始業式の日なので、S村尋常高等小學校の代用教員、千早健(ちはやたけし)は、平生より少し早目に出勤した。白墨(チヨオク)の粉に

文字遣い

旧字旧仮名

初出

「スバル 第二号」1909(明治42)年2月1日

底本

  • 石川啄木作品集 第三巻
  • 昭和出版社