一 木梨軽(キナシカル)木梨軽(ノ)太子の古い情史風のばらっどの外に、新しい時代に宣伝せられたと思はれる悲しい恋語りが、やはり巡遊伶人の口から世間へちらばり、其が輯録せられて万葉にある。一つは宅守(ヤカモリ)相聞である。今一つは乙麻呂(オトマロ)流離の連作である。時代が新しいから真の創作であらう。そして不遇な男女が、哀別の涙をさへ、人に憚つて叫び上げたものゝ様に思はれ、我々をも動す強い感激が含ま