ドーヴィルものがたり
ドーヴィル物語

冒頭文

一 日本留学生小田島春作は女友イベットに呼び寄せられ、前夜晩(おそ)く巴里(パリ)を発(た)ち、未明にドーヴィル、ノルマンジーホテルに着いた。此処(ここ)は巴里から自動車で二時間余で着く賭博中心の世界的遊楽地だ。 壮麗な石造りの間の処どころへ態(わざ)と田舎(いなか)風を取入れたホテルの玄関へ小田島が車を乗り付けた時、傍の道路の闇に小屋程の塊(かたまり)が、少し萌(きざ)して来た暁

文字遣い

新字新仮名

初出

「経済往来」1933(昭和8)年10月号

底本

  • 岡本かの子全集2
  • ちくま文庫、筑摩書房
  • 1994(平成6)年2月24日