ちゃやしらずものがたり
茶屋知らず物語

冒頭文

元禄享保(きょうほう)の頃、関西に法眼、円通という二禅僧がありました。いずれも黄檗(おうばく)宗の名僧独湛(どくたん)の嗣法の弟子で、性格も世離れしているところから互いは親友でありました。 法眼は学問があって律義の方、しかし其(そ)の律義さは余程、異っています。或(あ)る時、僧を伴(つ)れて劇場の前を通りました。侍僧は芝居を見たくて堪りません。そこで師匠の法眼が劇場の何たるかを知らないの

文字遣い

新字新仮名

初出

「禅の生活」1935(昭和10)年6月号

底本

  • 岡本かの子全集2
  • ちくま文庫、筑摩書房
  • 1994(平成6)年2月24日