こうげんのたいよう
高原の太陽

冒頭文

「素焼の壺と素焼の壺とただ並んでるようなあっさりして嫌味のない男女の交際というものはないでしょうか」と青年は云った。 本郷帝国大学の裏門を出て根津権現(ごんげん)の境内(けいだい)まで、いくつも曲りながら傾斜になって降りる邸町の段階の途中にある或る邸宅の離れ屋である。障子を開けひろげた座敷から木の茂みや花の梢(こずえ)を越して、町の灯あかりが薄い生臙脂(きえんじ)いろに晩春の闇の空をほのかに

文字遣い

新字新仮名

初出

「むらさき」1937(昭和12)年6月号

底本

  • 岡本かの子全集3
  • ちくま文庫、筑摩書房
  • 1993(平成5)年6月24日第1刷